2016.08.12

今回はKi-Yanコラム。
木村英輝先生の魅力を、壁画制作アシスタントとして、
いつも側にいる西嶋の視点でコラム形式でお伝えします。

京都の夏の風物詩“五山の送り火”に、
かつて木村英輝施した季節外れの大胆な行動を綴ります。

【 Ki-Yan コラム Vol.6 】"木村英輝と五山の送り火"

京都のお盆、五山の送り火。

一目見ると、思わず故人を偲んで手を合わせてしまう。
神聖で不思議で、大胆でかっこいい、炎の儀式。

かつて、この五山の送り火のメイン、如意ヶ嶽の大文字の送り火を、
自分たちの色に染め上げてしまった男の話をご存知だろうか。

現在も、圧倒的存在感で、
"自由と秩序の象徴"のように、京都大学敷地内にそびえている京大西部講堂。

かつて、そこでは新しい試みを帯びたイベントが繰り返し行われ、
若者の憧れの地、ロッカーたちの登竜門として、
沢山の人でごった返していたらしい。

当時、イベントプロデューサーとして、
時代の無法者たちの集う京大西部講堂をまとめあげていたのが、
眼光鋭い木村英輝。

壁画絵師なんて"へ"の字もなく、当時からのご友人によれば、
「人と話していると思えば、いきなり、その人がぶっ飛んで床に倒れこむ」
ということは、日常茶飯事であったそう。

(この時代の先生、会いたいような、会うのが怖いような。)

無法者たちを相手にするのは、
やはり、受け入れる掌の大きさと温かさだけではなく、
拳も大いに有効だったらしい。

1976年2月4日、木村英輝率いる西部講堂に、
オルタナティブロックのモンスター、フランクザッパ率いる、
マザーズ・オブ・インヴェンションを招くことになった時のこと。

当時、世界では11週連続売り上げ1位を記録するような
モンスターバンドでも、日本では認知度がほぼ無いに等しく、
折角の歴史的コンサートは、開催目前にして客入りが芳しくなかったという。
(もったいない！)

そして開催3日前、広報に攻めあぐねた頃。
木村英輝率いる若者100人は、トンデモナイ行動に至る。

「大文字に、フランクザッパのZを描こうや」

イベントプロデューサー木村英輝の辞書に、
"空席"という文字はない。

画して、前代未聞の"大文字ジャック"が敢行され、
季節外れの寒空に、数百灯の懐中電灯で象られた巨大な"Ｚ"が出現した！

"あれは何だ"

"神聖な場所になんと言うことを！"

沢山の動揺と、どよめきの中に、

"なぜＺ?"

"なぜ今？"

"あの意図は何？"

と、小さな波紋は、大きく広がっていった。

人々の心を打つに十分だった、夜空に浮かぶ"Ｚ"の文字の噂は、
あっという間に京都中を駆け巡り、フランクザッパを一目見ようと
その日の内になんとチケットはソールドアウトしてしまったという。

。。。。

当時を振り返る時、いつも先生はイタズラ少年のように微笑む。

少し神聖な場所をお借りして、
決して荒らすことなくスマートに敢行された一大イベントは、
当時のロック小僧たちの指標として、
盆の風物詩とともに今も息づいている、

かも知れない。